離さない。
            黒田 







今日は、朝からずっと雨で
”無能”と言われているロイは、心底機嫌が悪かった。
それを辺りに撒き散らす有様。
煩いから
と、無理やり執務室の外に放り出された。
「30分程、暇を差し上げます。」
美人な中尉はその綺麗な顔を歪ませずに言った。
ロイは嬉しそうにその場を去ろうとした。
「…ただし、30分経っても戻って来ない様なら…」
ガンッ
言葉が言い切らないうちに乾いた音がした。
ロイの足元に小さな丸い穴が空いた。
「覚悟しておいて下さい。」
まだ煙が上っている銃口を下に向けて、
軽く敬礼をして執務室の扉を閉めた。
これは、本当にしっかり帰らないと大変な事になるなぁ
と思いつつ、ふらふらと気晴らしに向かった。
向かった先は、
中々誰も入って来ない、資料室の奥。
少し仮眠でも取ろうと、置いてあったソファに横になった。

そう、少しの筈だった。


「…さ…大佐。」
ゆさゆさと肩を揺さぶられて、半分覚醒する。
「んん…。」
とろんとした目を向けて眠りの邪魔をする奴の顔見た。
「何だ…ハボック…?」
その返事にハボックは大きく溜め息を吐いた。
「…大佐。今何時だと思っておいでで?」

「…。」

「…。」

沈黙が流れたすぐ後に、ロイは目を見開いた。

「あぁーっ!!お、おい、今何時なんだ?!」
「何時でしょうねェ?」
「ハボック!」
はぁ、ともう一度大きく溜め息を吐いて、
ロイの腰の辺りを探る。
「な、何をする…ッ!」
「何って、ほら。」
「…え?」
探っていた手から出てきたのは銀時計。
「なぁに、えっちなコト考えてるんですか。」
にやりと笑われて、ロイは顔を真っ赤に染めた。
これだけで敏感になってしまう体を恨めしく思う。
羞恥に顔を背けると、ハボックが覆い被さって来た。
「ちょ…っ!?」
「今ですねェ、あんたが出て行ってから約1時間。」
ロイの言葉が言い切らない内に被せられた言葉に
再び目を見開いた。

しまった…。

そう思ったのは、とうに遅く。
ハボックはいつもの変わらない顔をしているが
実際は凄く怒っている様だ。
「帰って来ないあんたを探しに行けって言われるまで
あの中尉の怒りを誰が抑えたと思っています?」
「す、すまない…。」
ここは素直に謝っておくべきだと察して目を合わせないように謝った。
「…さ、早く戻ろう。もっと中尉を怒らせる前に。」
居心地が悪い雰囲気から早く逃げたかった。
だが。


「ダメです、離しません。」


「…は?」
驚いて、目を合わせた。
「ダメですって言ったんです。」
「な、何を訳のわからん事を…。」
無理やり起きようとハボックの肩を押した。
だが、逆にその腕を掴まれてソファに押し戻される。
「…ッ。」
ダメだ。
これは完璧に怒っている。
それもそうだ、こうやって約束を守らずに
ハボックに迷惑をかけたのは今回ので何度目なのか。
ロイは、小さく溜め息を吐いてハボックを見た。
「…どうすれば、離してもらえるのか?」
「そうですねェ…
たまには大佐から、甘いキス、くださいよ。」
かぁっ、と一瞬にして頬を朱に染めたロイを見て楽しんでいるかのように
ハボックは余裕のある表情で見下ろす。
「…この馬鹿犬…ッ!」
そう言って、顔を持ち上げて軽くハボックの唇を啄ばむ。
ちゅっ
という音を残して離す。
「まだ甘くないですけど?」
挑戦的な目で見られ悔しくなって、噛み付くように唇を合わせる。
場数を踏んだキスを味あわせてやる、
と言わんばかりに積極的に舌を絡めてやった。
酔ってしまえ、と。
「…ふ…ぅ…。」
自分まで酔ってしまわないくらいに留めて、唇を離した。
「ど、どうだ…っ。」
少し上がった息を整えながら睨む様にハボックを見た。
「うーん…、大佐。甘いってのは、こーゆーのです。」
「…え…っ。」
驚く暇も無く唇を奪われた。
先程のロイからの積極的なキスではなくハボックからのキス。
相手の舌を上手く絡める。
何度も角度を変えては繰り返されるキス。
「…はぁ……っ。」
いつの間にか夢中にされていて。
再び、
ちゅっ
という音を残して離される。
先程の起きた時とは違う、とろん、とした表情のロイに小さく笑った。
「…どうです…?
これくらい甘くないと。」
「…甘過ぎだ…バカ…。」
恥ずかしそうに顔を背ける。
それで満足したのか、ハボックは起き上がった。
「さ、早く戻らないと今度こそ中尉に殺られちまいますよ?」
「…あぁ、わかってる。」

誰のせいで長引いたと思ってるんだか。

と思ったが言わないでおいた。


















言い訳。

ふぎゃー…!!
強いハボックを!
と思ってみたものの…!
なんだ、これは…っ!!
大いに失敗してるで…!!
あぁ、精進あるのみ…!!



黒田  (旧:神崎 楓)




2003.11.8
(移動:04.10.31)

















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