(*「涙の理由」→「哀」→「接触」→「かけひき」の続きです。
捏造ありまくりです。*)
愛しい。 黒田
…そうだ、あれだけ言えば…
自分から突き放した
なのに
まだ忘れられない。
自分で傷つけて、それ以上傷つくのを恐れる。
そうやって、昔も今も誤魔化してた。
汚い 人間。
アルコールの臭いがする。
ぼんやり瞼を開けると見慣れない天井が見えた。
何度か瞬きして溜め息を吐いた。
詳しく場所を知ろうと視線を巡らせた。
「あ…気分は…どうですか…?」
自分の左側から控えめな声が聞こえた。
間違いない、彼の声。
「…今は…なんともない…。」
掠れた声と同時に目を閉じた。
喉が痛い。
鉄の味がする。
そうか、血を吐いたんだった。
彼と視線を交えたくなくて、閉じた瞼の上に手を乗せる。
「…すまない、面倒を掛けた…。」
「…いえ。」
閉じた瞼が俄かに震え始めた。
怖い。
自分の今の状況も
彼も。
「…私は、平気だから東方に帰りたまえ。」
最後にそれだけを言って、彼に背を向けた。
左腕に何かが伝っているのが見えたが気にせずに右手で抱えた。
「…失礼しました…。」
背を向けられて、駄目だと言う事が再び重く圧し掛かった。
彼の体に繋がれた点滴の管が軽く引っ張ったのを元に戻そうと
手を伸ばし掛けたが、
それ以上伸ばせなかった。
触れたら、もっと諦めがつかなくなるから。
伸ばしかけた手を握り、立ち上がってドアノブを回して部屋を出た。
彼が出て行った事がわかった。
耐えていた目から涙が溢れた。
堪え切れない嗚咽と共に酷い咳。
手から伝って温かい物がシーツに落ちた。
白の上にどす黒い赤が散る。
「…っ…!」
驚いて、その手を握り締め隠すように身を捩った。
その時、管に引かれて点滴が倒れた。
部屋を出て名残惜しそうにドアの前に佇んでしまっていた。
未練がどうしても断ち切れない。
耳に通常では聞こえない音が聞こえた。
がしゃん
という物が倒れたような、壊れたような音。
部屋に入るのを少し躊躇ったが、そうも言ってられない。
「大佐!?」
ドアを開け、中を伺うと点滴が倒れ液体が零れている。
ベッドで体を震わせているロイを見て駆け寄る。
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
ロイを繋いだ管から、綺麗な赤が流れている。
血が、逆流してきている。
「大佐、点滴の管!」
ロイをこちらに向かせようと左肩を掴んだ。
「…触るな!!」
震えた声。
「今はそれ所じゃないでしょ!?」
苛ついたように怒鳴ってこちら側を向かせた。
目を見開いてしまった。
黒い、まるでワインのような赤が彼を汚していて。
死を連想させる、赤。
怯えて涙で濡れた目を見て我に返った。
血で汚れた腕から管を外して指で圧迫する。
「…怒鳴って、すみませんでした…。」
静かにハボックの声が響いた。
「痛い所は?」
点滴に痛み止めが入っているのを知っていたが、
それを超える痛みがあるのかと思った。
だが、ロイは首を横に振った。
「痛い所は無い…でも、医務の先生呼ばないと。」
それでもロイは首を横に振った。
「大佐…?」
怒鳴られて、冷静になった。
このままではいけない、と。
「…ハボック…少しだけ、話をしていいか。」
怖くて見れなかった彼の目を見つめる。
ここで話さなければ、きっとこの先も逃げてしまう。
「…結婚、おめでとう。」
掠れた声は震えなかっただろうか。
「…ありがとう…ございます…。」
流石に昔のようにいかないけれど、
彼にも
祝う言葉は伝えなければ、と思った。
「…私も、人を頼らず生きていくよう努力する…今まで、悪かった。
幸せに、なってくれ…。」
「…何スか、それ。」
彼の目が怒気に満ちた。
「何なんですか、それ。今まで悪かったって。」
「…決まった女性も居たのに、付き合わせて…悪かった…。」
本音は、違うのに。
「あんた、何聞いてたんですか!?
俺は、あんただけだってずっと言ってきたじゃないですか!」
「嘘を吐くな!」
空気が一瞬にして張り詰める。
「…結婚の話は、嘘吐きました。カマ掛けるつもりで。
でも、それ以外は嘘吐いてません。」
張り詰めた空気に低い声が響く。
「…信じない。」
自分だけだと言って、あの夜は何だったのか。
「…じゃあ、何で信じてないまま俺に抱かれてたんですか。
性欲処理の為っスか?”あの人”の代わりっスか?」
溜めてたモノが次々と言葉になっていく。
傷付けるとわかってて。
「………そうだ。」
心底傷付いた目。
やり直しも、向き直りもあったもんじゃない。
「でも、ハボック。私は、お前に依存していたよ。」
彼となら。
いいと思った。
「…代わりに、なんて思ってたのは本当に最初だけ。
あとは、お前に依存してた。」
お互いが噛み合っていない。
「じゃあ、どうして…あの日…。」
俺を、拒んだ?
「…無理にお前を引き止めている訳にはいかないだろう。
決まった女性もいたのに、上司だからといって。」
「決まった女なんていないですよ!」
「遊びにしたって、私一人を好きだなんて、思えない。」
その言葉が妙だった。
”遊びにしたって”。
あの日まで、自分はロイに女といる所なんて一回も見せた事はない。
いや、女とだってあまり会わない。
会ったのは、あの日の前夜に。
繋がった。
全部。
「大佐、俺は上司だからと言って男を抱いたりしないですよ。」
圧迫していた指を外して、そのまま手を握る。
「少しでも自分に気が向いてるのかと思いきや、
中佐に甘いあんたが気に入らなくて、苛々してたけど。」
「前からも、今でも、あんたが何より好きですよ。」
ありったけの気持ちを込めて。
どうか、彼の心に届きますように。
「…ダメだ、ハボック、そんなの…信じられない…。」
首を横に振って握った手を逃れようとする。
それでも、離さない。
「確かに、俺は女に手を出した。
けど、やっぱり、あんたを探してた。
中佐を甘やかして、俺は放っておいて、
だから、気に掛けてもらいたかったんだ。」
そりゃ、中佐は大事な人だってのは知ってるけど。
「…大佐は、今は俺の事、どう思ってますか。」
感が切れたように涙が溢れた。
逃れようとした手を握り返して、
もう片方の手をハボックの頬に乗せる。
軽く、唇を合わせた。
鉄の、血の味がした。
お互いの唇に血が乗る。
「…ちゃんと…言葉で…。」
血を乗せた唇が言葉を紡ぐ。
「…好き、私も…お前が好き…」
まだ言い切らない内に、近くに合った唇を合わせる。
怯えたように震える唇を優しく舐める。
死を臭わせる赤を拭ってやるように。
伏せられた濡れた目元に、深く影が出来ているのを見つけた。
握った手や腕も細く、抱え上げた時の体も、
今、抱きしめた体も、軽かった。
この人は、凄く、痩せた。
それを、今になって気付いた自分の愚かさを悔いた。
さっき、出会った時に、気付けたはずなのに。
あの日から、ずっと溜め込んでいたのだ、この人も。
自分より、遥かに。
今まで以上に、腕の中の存在が愛しいと思った。
***
「失礼します。
マスタング大佐、ハボック少尉、仕事の方はどうですか?」
ドアを開けたブロッシュが、書類を片手に敬礼をして中に入って来た。
中央で、ロイ用に作られた執務室に。
そこは、始めと違ってベッドが設けられていた。
それと、
金髪の軍人も一人。
「まぁまぁかな。なぁ、ハボック少尉?」
ベッドに堂々と上半身だけ起こして寝ているのはロイ。
「…そうっスね、見ての通りだと思うんですけど。」
その隣には、机に向かって必死に書類と格闘をしているハボック。
机には、山のように積まれた書類。
「ロス少尉に言われて、手伝いに参りました!」
「おっ、助かるよ、本当。
この人、全然仕事しないから。」
和やかに笑いながら、予備の椅子を持ってくる。
「ハボック?」
「はいはい、俺のせいですよね〜。」
ブロッシュは、ロイが倒れた時に、何となく解った。
この二人の関係が。
いや、気付かなかったらおかしいだろ。
あんなに必死だったのは、部下ってだけでは無理だろうし。
色々、腑に落ちないモノがあるが、
それでも、ロイの調子が戻ったので良しとする事にした。
「あ、そうだ。」
ふと思い出して、片手に持っていた書類をロイに渡す。
「…誰からだ?」
不思議そうに受け取って、読み出した。
「ホークアイ中尉からです。」
「…なッ…!!?」
焦って読んだロイは、顔面蒼白にした。
「ハ、ハボック、急いで仕事を終わらせるぞ!
明後日には帰らないとまずい!」
書類とシーツを手放して、ベッドから降りる。
「あ、明後日って
明日中には終わらせないといけないじゃないっスか!?」
「そうだ!でないと…。」
「…。」
二人の間に沈黙が流れる。
「やりましょう。」
ハボックは、顔を引き締めて答えた。
ブロッシュは、そんなやり取りをぼんやりと見ていた。
ホークアイは、そんなに怖いのか。
振り向いたロイが、ブロッシュの肩に手を置いた。
「…すまないが、頼んだぞ。」
艶のある、極上の笑み。
頷かずにはいられなかった。
そして、ホークアイの決めた期日には、二人して東方に戻った。
言い訳。
すみません…!
やっと終わったのに…激甘で…。意味不明で…。
しかも、最初考えていたモノとは別物なってしまって…
なんだか、遠のきました。
ブロッシュは、ロイの事、恋愛の意味で好きでいたんだけど
それに気付かなかった感じで。
連載とは、難しいものですね…。
世の中の作家さんを益々尊敬しました…。
では、今まで読んで下さった方々、ありがとうございました!
番外編が出るかもです。
黒田 (旧:神崎 楓)
2004.10.1
(移動;04.10.31)
(ブラウザバックでお戻り下さい。)