(*文の中でのハボックと女性がちょっとアレな部分が書かれています*)







涙の理由。          黒田









「ねぇ、ジャン、抱いて?」
「んー…?」
「だって、最近シてないんでしょ?」
「ま、そうだけど。」
「だったら、いいでしょ?」
そう言って仄かに甘い香水の香りが鼻先に掛かる。
そのまま女は下半身の方へと手をやった。
忙しなくチャックを開けて。



最近、あのヒトは大事な親友様と一緒だし…。



関係がまさか、公に出来る物では無いので、
彼の親友に知られないよう恋人のようには会えない。
という事は正しいとも思う。
だが…。


半分悲しそうで半分怒ったような、
何とも不思議な視線を向けて煙草をふかす。
紫煙と共に何かの音がした。

がちゃん

という。
驚いて、その方向に顔と護身銃を向ける。
が、しかし、一向に音の主は現れなくて
女を退けて扉の方へ向かった。
だが、そこには誰も居なく
不審に思ったハボックは、扉を開けて外を見た。
辺りを見回してもやはり誰も居なかった。
「…あいつらか?」
わざわざ、軍人達の住む部屋に盗みに入る泥棒がいるとは
あまり思えない。
となると、しょっちゅう鍵が開いていれば
酒を持ってくる同僚達だと思った。
入って来た早々、こんな所を見たら何も言わずに帰るだろう。
護身銃を降ろして、紫煙と共に小さく溜め息を漏らした。






あんたは、俺がこんなコトしてても気に掛けやしないでしょ?








***






暗い夜道を何度も転びそうになりながら
何かに追われるかのように走る。
脇に抱えたワインも揺れて水音がする。
その音に気付いた時に、やっと走るのを緩める事が出来た。
ふと気付いて周りを見れば、自宅に近い事が解った。
無意識にここまで来た事に少し驚く。
荒く息を吐いて歩調をもっと緩めた。
水音もゆったりとして、次には聞こえなくなった。
息を整えようと、もう一度大きく息を吐くと
白い息が空気に紛れた。





今日は、寒い。
こんな寒い中、親友のマース・ヒューズは
列車に乗って中央に帰って行った。
予定より、早い出発だった。
何でも、娘が風邪を引いたとかで。
それを見送り、肩の荷が降りた思いで
やっと恋人であるハボックの家へ訊ねる事が出来るようになった。



2週間…ぶりか…。



ヒューズが来ると、必ずロイの家に泊まる為
外出する事もままならなかった。
何せ、ハボックとの関係は教えていないし、
数々の女性と夜を過ごす事は、
この年になったら止めると言ったものだから。
だから、家にいないとおかしいのだ。
溜め息を吐きながらハボックの家へ向かう。
自分の家へ呼び出しても良かったのだが、
やはり会えない理由を作ったのが自分なのだから
出向くべきだろうと思った。
近くで中々上等なワインを買って、機嫌もとってやろうと。



それ、なのに



彼は、女を相手にしていた。
ハボックも自分と関係を持つ前はきちんとした趣向の持ち主だったし。
こうなったとしても不思議な事は無い。
女の肌が恋しくなったのだろう。
男として、それは仕方が無い事だと思う。

唯、

凄く、裏切られた、と思った。
彼からの愛の言葉は何度か聞いた事はあるが
自分からは何も伝えていない。
”恋人”という関係も危ういようで。
だから、”裏切られた”という言葉は間違っている筈なのだ。
何も伝えていない自分に縛られる理由も無い。
しかし、あの時の自分は確かにそう思った。
途端に可笑しくなって、苦笑した。
「…私は、何をやっているんだ。」
勘違いしてはいけない。
彼は、ヒューズの代わりで、
親友よりも女を選ばれてしまった
可哀想な上司を慰めていただけに過ぎないのだ。

上司想いの
良い、部下。

そこまで考えて自宅の扉の前に着く。
いつものように鍵を開けて中に入るだけなのに
鍵を探すだけなのに
手が上手く動かない。
やっと出した所で手から滑り落ちて地面へ落ちた。
それと同時に、水滴が落ちた。
一つ、また一つ
地面に染みを作っていく。








全てが信じられなくなった、夜。
















言い訳。

す、すみませ…!続いております…!
なんだか、暗ぁい話になってます ね…。





黒田  (旧:神崎 楓)


2004.3.16
(移動:04.10.31)


























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