初めての夜。 6 黒田
「処女って、面倒なんだよなぁ。」
「あぁ、それ解る〜。なんか、いちいち気を使うっつーか。」
「背中引っ掻かれたりとかさ〜。面倒なんだよな、本当。」
「何々、最近あったの?」
揺られる車の中で
昔、自分がまだ士官学生だった頃
盛りのついた、まだまだ青い同級生が話してたのを思い出した。
「…所でさ、マスタング、
あいつ、どうなんだろ?」
「あぁ〜、綺麗な顔してるしなぁ。
ヒューズと、って話もあるみたいだぜ?」
「うぁ〜!ヒューズ、羨ましいなぁ!」
そういう下世話な話に自分の名前がよく入る。
その事だけじゃないけど
ロイは、やはり男性に引け目を感じていた。
でもハボックには、それをも越えて愛せたのに。
漏れ出そうになる溜息を抑えて、窓の外を見ると
景色が急に止まった。
目的の場所に着くには、まだ進んでいない。
「ロイ。
皆からだ、成功させんだぞ。」
「…え…?」
言葉の意味が解らなくて聞き返すが、
答えぬまま、彼は車を降りてしまった。
「ヒュ…」
更に意味が解らなくて声を上げた瞬間に、
運転席の扉が再び開いた。
煙草の匂いが外の空気と混じって嗅ぎ取れてしまった。
ヒューズの代わりに乗ってきたのは、
金髪の、軍人。
「…俺が代わりにお送りする事になりました。」
ハボックだ。
「……っ…!」
あまりに突然で、目を見開いた。
どうして。
皆からって。
「…この道、まだ真っ直ぐでいいんですよね?」
「…あ、あぁ…。」
自分が、一番汚い仕事に行くのを彼に送らせるというのか。
どうして。
「大佐。
…これ、着てください。」
振り向かずに、軍服の上着を差し出された。
「……いい。」
「そんな格好でいられると、俺が困るんスよ
…着て下さい。」
困る?
どうして?
”綺麗”じゃない
はしたない
彼の好みから外れているから
こんな女の
はしたない姿なんて見たくない
「……。」
上着を受け取って羽織る。
体が見えないように、ぎゅっと大きい軍服の前を合わせる。
煙草の匂いと一緒に、彼の匂いがする。
優しい匂い。
込み上げそうになる涙を堪えて俯くと
太腿が大きく露出している事に気付いた。
ショールを膝に掛けて隠す。
これ以上、嫌われたくない
「……ハボック少尉、
ここでいい、降ろして…。」
もっと汚れる所に行くのを見送られたくない。
「…何言ってるんですか。」
「…一人で、行けるから
だから、降ろして…。」
懇願に似た声だった。
「……嫌なのは、わかりますけど。
でも、俺、決めたんで。」
ハンドルを急に右へ回した。
急で体が追いつかず、ドアに肩を押し付けて耐える。
「あんたを守るのが、俺の仕事です。」
車のスピードが上がっている。
体を支えようと手を窓に置いた時、
指越しに見た景色が通り過ぎて行く。
「ハボック!道が違う…!」
驚いて彼を見る。
「…行かせません。」
「何を言って…!」
「中尉と中佐が、何とかしてくれます。」
「何とかって…!!」
『皆からだ、成功させんだぞ。』
「……!」
「もう、一人で傷付かないで下さい…。」
「……。」
涙が出そうになるのを、また堪えて俯いた。
強いと思っている自分の弱さを解ってくれる。
こんなに有難い事はない。
感謝の気持ちが溢れる。
「…家まで、送ります。」
頷く事で答えた。
***
もう、何度も辿っているのだから、慣れたように彼女の自宅に着いた。
ドアを開いて控えめに手を差し出した。
女性に向けてのマナーだが、嫌なら掴まないだろう。
「………ありがとう。」
彼女は少し躊躇っていたが、手を差し出した。
自分より小さい手を掴み、立ち上がる助けをする。
軽い感触がして、それは離れた。
「…あ、上着。」
「あ…。いいですよ、今じゃなくても…。」
「…いや、すまなかった…。」
上着を渡される。
それを受け取ると、まだ温もりが残っていて
じんわりと手に馴染む。
ロイは、ショールで肩から胸元を覆った。
隠すという言葉が合う程に手早く。
警戒しているんだ。
「…それじゃあ、また明日。」
「…あぁ…また、明日…。」
その警戒が解けるまで、この距離を勤めていれば
いつか…。
彼女が家に入るまで見送って、
車に乗り込んだ。
扉を閉めて、背中をそれに預ける。
手を、差し出してくれた。
マナーだと言う事もわかっているが、それでも
嬉しかった。
まだ、嫌わないでいてくれている。
扉の向こうで、車のドアを閉める音が聞こえた。
その次にエンジンの音
彼が帰る。
「……待って…っ。」
『また、明日』
自分が言いたかったのは、そんな事じゃない。
扉を開けて外へ出る。
咄嗟の動きでヒールに無理な負担が掛かり
体がぐらついたが耐えて車を見据える。
その車は、もう走り出してしまっていた。
そうだ、彼は帰るんだ。
直帰か、車を軍に返して仕事に戻るのか。
自分を送ったのは仕事の一部。
当たり前だ。
「大佐!」
エンジンの音はそのままで、
車から降りた彼が駆け寄ってくる。
「どうしました、何かありましたか?!」
駆け寄るハボックの近くに自分も寄った。
「…ぁ…
…あの…ありがとう、送ってくれて。」
「…い、いえ、そんな…別に…。」
「………。」
「………。」
間が持たない。
言葉が見つからない。
彼が帰ってしまう。
「…大佐。
あの、昨日は…本当にすみませんでした。」
顔を上げて彼の目を見た。
「一人で勝手に焦ってて…、大佐の話も聞かないで…。
ごめんなさい。」
真剣な目で、でも切ない目。
「…許されるとも思ってないです。
もう貴女に触れられる資格が無いのも解ってます。
…でも、せめて好きでいる事は許して貰えませんか…?」
「……っ!」
今日何度目かの涙を、とうとう堪える事は出来ず零れた。
「……嫌われてしまったのかと…思ってた…っ。」
小さな声で、泣きながら話す。
よく聴いていないと逃してしまうかと思うくらいに。
「…私は、汚い…から、誰にでも、足を開くから…って…
処理…さえ、出来れば、良かっ…んじゃないのか…とか…
お前は…”綺麗”な子が…良くて…っ……」
嗚咽混じりに話す言葉に胸が詰まった。
どれだけ、この人を傷付けてしまったのかを思い知った。
「そんな事無い、
そんな事無いですよ…大佐。」
震える細い、その肩を抱きしめてしまいたかった。
でも、自分には資格が無い。
「汚いなんて思ってません。
処理だなんて、繋がる事を望んでいたのは事実ですが
そんな風に思った事なんて一度もありません。
…いつになったら認めて貰えるのか、焦っていて…
貴女を傷付けてしまって…ごめんなさい…。」
彼まで泣き出してしまいそうに声が掠れている。
それが、とても愛しく思えて。
「……ハボック、もう一度…。」
絶え絶えに言葉を紡ぐ。
「私を…、お前の
…恋人にしてくれないか…?」
自分から、こんな風に相手を求める言葉を使った事が無くて
とても緊張する。
いつもは相手からで、自分は応えなかった。
でも、今は違う。
自分から伝えて、彼に理解して貰いたい。
「…そんな…良いに決まってるじゃないですか…っ!」
震えるような声で返事が返って来た。
それが嬉しくて、そっと近付く。
それも自分からした事は無くて緊張して
ゆっくりと頭をハボックの胸に預けた。
心臓の音が酷く早い。
あぁ、彼も緊張しているんだなぁ、と感じられる。
半年以上掛かって
やっと、始まりが見えた。

言い訳。
えっと……。
なんだか青春ドラマのようですね…
これってラブコメ…?(いや、”コメ”の部分が無い…)
う〜ん、やっと、修復しました。
時間にするとかなり短時間で元通りになってしまったんですが…
もうちょっと時間経たせれば良かった気も…。
そうするとロイは逃げてくんですよね…。
次は、性的表現有りなので
苦手な人は、その次から読めるように配慮を考えます。
黒田
2005.11.8
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