(*「初めての夜」→「色気」の順で読まれる事をオススメします。*)
押し倒す。 1 黒田
「解ったら、協力して下さいね、ハボック少尉。」
「…はい。」
全然知らなかった。
彼女に負担が掛かってるなんて。
今思えば、ほぼ毎夜あんなに求めてしまっては
体調も悪くもなるだろうに。
浮かれて思うがままに求めた自分が情けない。
それでも、今夜も堪らず行為をしてしまって。
今回は、いつもより冷静になって優しく負担の掛からないように
彼女を窺いながらしてみて気付いた。
ロイが声を抑えて、耐えるようにしていた事を。
目が合うと優しく瞬きをしながらも微笑んでくれたけど。
初めての時、”気持ちが良い”と聞いたから
大丈夫なのだと思っていた。
女性は、気持ちが良くなくても”フリ”が出来るから。
満足させられていない。
昼間にヒューズに言った言葉が嘘になった。
満足してるのは自分だけ。
そんなのを求めているんじゃない。
彼女と、生きる、分け与えられる幸せを共用したいのに。
「………………やばい、行き詰ったなぁ…。」
溜息と共に零れた小さな言葉。
煙草の紫煙と一緒に空気に溶ける前に
隣で静かに眠る恋人の耳に届いてしまった。
『……行き詰る……?』
***
「ふぁ……。」
「まぁ、大きなお口です事。」
慌てて手で口を隠すが、間に合う筈も無くリザが笑う。
「リ、リザ…笑わなくてもいいだろう…?」
「大佐が幸せそうで良かった、と思っての事なのですよ。」
数日前までは、酷かった。
冷たい眼が忘れられない、大事な尊敬するロイのあの表情を。
その彼女が今は幸せそうで本当に良かったと思っている。
「…ん、ありがとう。」
数日前のあの表情を、今こんなに柔らかく笑う彼女に変えるなんて
素晴らしい事だ。
『……ハボック少尉は大物だわ、本当に。』
眠そうに眼を擦る彼女を見ながらそう思った。
「あ、中尉。
あの、…その……相談とか、してもいいかな?」
眠そうな眼が一気に覚醒して、少し恥ずかしそうにリザを見る。
普段凛々しい彼女がこういった仕草をすると
女性でも少し、可愛いと思ってしまう行為だった。
だから、リザも結局何でも頼み事を聞いてしまう。
内容にも寄るのだが。
「相談なんて今更ですけど…何かありました?」
「その…な、彼を喜ばす…って何をしたら良いと思う?」
突然で目を見開いた。
彼女が男を喜ばせたい、と。
昔から男に手を焼いていたのを知っていたし
自分からやろうなんて言うとは思わなかった。
それ程、彼の事を愛しているのだと確信して嬉しかった。
「そうですね…。
たまには積極的になってみる、とかはどうでしょう?」
「そ、それはダメだ!
ハボックは無垢で清純な子が良いのだから、そんな事したら…!」
”淫乱”に思われてはダメだ。
嫌われてしまう。
唯でさえ、自分はそう見られてしまい易いのだから。
「…そ、そうなんですか…?
……では、今日帰りに買い物に行きましょう。」
「…買い物?」
「はい、積極的では無く、彼を喜ばせられますよ。」
「本当?」
「えぇ、彼ならこれでイチコロです。
さぁ、早く仕事を終らせて買い物に行きましょう?」
「うん。」
流石は自分の右腕、と褒め称えながら
先程の眠気を飛ばして仕事にのめり込んだ。
「リ、リザ…彼を喜ばせる方法って…?」
女性しかいない店内を見渡して、思わず目を背く。
「えぇ、”下着”ですね。」
店内に飾られた下着は、可愛らしい物からハードな物まで様々だ。
ロイは下着を意識した事が無く、
いつも白かベージュ、黒を着ていた。
「他に方法は無いのかね…?」
「大佐。
積極的に見せない方法と仰っておりましたよね。
料理も考えたのですが、それでは時間が無さ過ぎます。」
「うぅ…。」
ロイは料理が下手だった。
下手というか本通りにしか作れないから。
見た目も味も悪くは無いのだけれど、
どこか”美味しくない”のだった。
それが解らず、料理は作れずにいる。
「プレゼントも考えました。
でも、それは何か記念日でも無いのに渡してしまうと
彼は怪しがります。
男ってそういうものですよ、大佐。」
まぁ、人それぞれですけど、と付け加えて
ロイの手を取って店内の奥へ入る。
擦れ違う店員が一人一人リザに挨拶をしているのを見て
彼女が馴染みの客なのだと分かる。
「オーダーメイドも素晴らしい出来なのですよ、ここは。
次回にでも大佐もオーダーしてみます?」
どんなものをオーダーしているのだろうか、と考えてしまう。
普通に市販されている物を着ているから余計に。
ただ、自分の体に合わせた下着をオーダーするだけなのだが。
どんな物が出てくるのか、と怯える中で
ぴたりとリザが止まった。
「ハボック少尉は何色が好きなのかしら。」
沢山並んだ下着の中から数枚取り出す。
「清純なイメージでしたら、白かピンク、淡い色ですね。」
レースをたっぷり使った柔らかいデザインの物や
至ってシンプルだけど、細かい刺繍が入った物など
色々あって目が回る。
「……私のイメージだと、こちらなのですが如何でしょう?」
全体の色は淡いワインレッドで、しつこくない程度に付いたレースに
銀色と黒の糸で細かい薔薇の刺繍がしてある。
ぱっと見るとシンプルだが、高貴な感じがする。
「うん、…綺麗。」
自分に似合う気がする。
彼女は本当によく見ている。
「ハボック少尉は、きっとこっちでしょうね。」
白でレースをふんだんに使って、少しロリータな感じがする。
「清純な子がお好きなんですものね?」
冗談交じりに笑うリザに、やはり冗談交じりに怒ってみせた。
「私のジャンは、少女趣味じゃないぞ?」
「じゃあ、少し大人な感じのに致しましょうね。」
「あぁ、そうしよう。」
***
彼女が帰ってくる。
今日から暫くセックスはしない。
自分の抑えが利くようになるまでは。
行為をしなくても彼女と繋がっていられるのだから大丈夫。
あんなに拘っていたのに、一度手に入ってしまえば余裕も生まれる。
その分、欲望も大きくなる一方だが。
思考を巡らせていた時、扉が開く音がした。
帰ってきた。
彼女を出迎える為にそちらへ向かう。
「おかえりなさい、大佐。」
「ただいま。」
紙袋を少し隠すように部屋の中に入る。
「大佐、それは?」
隠すように持って入るなんて怪しくて気になる。
ロイは、何でもないような顔をしながら
あぁ、と然も今気付いたかのように紙袋に視線を向けた。
「中尉と買い物をしてきた。」
「そうですか、じゃあ、今日はお疲れで?」
紙袋を受け取ろうと手を伸ばしたが、手で制された。
「……いや、疲れてはいないよ。」
「…そうですか、
紅茶でも用意してます。」
ロイは頷いて自室へ向かった。
紙袋を持ったまま。
真っ白なシーツに包まり横たわる彼女の後姿を見て
やっぱり欲情してしまう、自分の若さが情けない。
あの人のようになりたいのに。
「…横、失礼しますよっと。」
クイーンサイズのベッドが少し軋み、
少し温もった彼女の隣へ滑り込む。
ロイの身体が強張ったのが分かった。
『…警戒、されてたんだなぁ…』
自分が彼女にどれだけ酷い事をしたのかも思い出す。
それから、上手く繋がれたが
あの時負った心の傷は深いだろう。
もし自分だったとしたら、
いくら愛する者だとしても時折トラウマとして蘇ると思う。
その傷を癒していかなければならないのに、
それなのに自分は。
ロイが心を少し開いたのを無理やり抉じ開けて甘えて。
自己嫌悪が重く圧し掛かった。
「……大佐…。」
「…ん?」
彼女は振り返らずに返事をする。
いつもは、彼女が背中を向けていようと後ろから抱き締められたのに。
「……背中、向けられると寂しいんですけど。」
「…全く…甘ったれだな、お前は。」
そう言いながら身体の向きを変えてこちらを見る。
彼女の表情を窺っていないと不安で仕方ない。
「…はは、すんません。」
笑って誤魔化した。
ふと、視線を変えるとロイのシャツの前が大きく開いて
胸元が見える。
清楚な白の下着が少し見えて、目線を逸らした。
『……危ない、見たら絶対勃つ。』
「…ハボック…。」
「大佐、おやすみなさい。」
ロイが何か言いかけるが、それよりも早く就寝を告げる。
自分が欲情しない内に。
「………おやすみ…。」
それからだった、彼がロイを抱かなくなったのは。

言い訳。
また続きもので す。
「初めての夜」を書き始めてから温めていた話です。
不安定な恋しちゃってんなー
と毎度思ってます…すんませ…。
再びお付き合いして頂けると大喜びです。
黒田
2006.2.1
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